プログラムへ戻る

1.オーバーデンチャーのキーパー根面板とインプラントキーパーの歯肉溝内における細菌叢について

Microbiota in the keeper coping gingival sulcus and the implant keeper abutment crevice

○東山真理子,石上友彦,天野優一郎,水谷 憲彦,宮前 真,田中貴信,佐野 恭之,*福田光男,*野口俊英

○Mariko Higashiyama,Tomohiko Ishigami,Yuichiro Amano,Makoto Miyamae,Yoshinobu Tanaka,Yasuyuki Sano,*Mitsuo Fukuda,*Toshihide Noguchi

愛知学院大学歯学部歯科補綴学第一講座
The First Department of Prosthodontics,School of Dentistry,Aichi-Gakuin University

*愛知学院大学歯学部歯科保存学第三講座
*The Third Department of Periodontics, School of Dentistry, Aichi-Gakuin University

E-mail:質疑応答の受付は終了しました


1.はじめに

 歯周病は,デンタルプラーク,特に歯肉溝内の細菌に起因する感染症であり,歯周病の発症と進行には歯周病関連細菌が関与していると考えられています.一般に,オーバーデンチャーの支台歯は歯周病に罹患しやすいと言われています.我々は,磁性アタッチメントを用いたオーバーデンチャーを数多く経験していますが,根面板上の義歯辺縁のマージンを,根面板のマージンと同じレベルの位置にすることで,比較的良好な結果を得ています.さらに,インプラント支台のオーバーデンチャーにおいても9年前より試作のインプラントキーパーを臨床に用いて良好な結果を得ています.

 我々は、第30回日本口腔インプラント学会において、クラウンタイプとオーバーデンチャータイプのインプラント支台、残存歯の歯肉構内の細菌叢について,比較を行い,クラウンタイプよりオーバーデンチャーのインプラント支台に細菌が多く検出されているのを確認しました.

 そこで,オーバーデンチャーのキーパー根面板とインプラントキーパーに限定し,それぞれの歯肉溝内における細菌叢を確認するとともに,炎症が生じている同種の歯肉溝内の細菌叢についても比較検討しました.



(図1)(図2)

 今回の実験対象を(図1)に示します.今回の被験者は,全て全部床タイプのオーバーデンチャー症例で,キーパー根面板支台を有する患者20名とインプラントキーパー支台を有する患者11名の計31名です.被験歯数は,キーパー根面板支台25本と,インプラントキーパー支台23本の計48本です.その内訳は,キーパー根面板において,炎症があるもの9本,炎症がないもの16本の計25本です.また,インプラントキーパーにおいて,炎症があるもの4本,炎症が無いもの19本の計23本です.

 実験方法について(図2)に示します.細菌の採取方法は,ペーパーポイントを被験部位の歯肉溝底部に3本挿入し,30秒間放置後,滅菌蒸留水に入れサンプル原液としました.細菌叢の検出には,polymerase chain reaction 法を用いました.以後PCR法とします.PCR法は,耐熱性のDNAポリメラーゼを利用した方法で,検出目的の細菌に特異的な2つのプライマーではさみこまれたDNA の特定領域を特異的に増幅できるもので,細菌培養せずに短時間で同定することができます.

今回調べた歯周病関連細菌は, Porphyromonas gingivalis,Bacteroides forsythus,Treponema denticola,Campylobacter rectus,Eikenella corrodens,Actinobacillus actinomycetemcomitans, Prevotella intermedia, Prevotella nigrescens

以上,炎症をおこす強い因子となる8菌種です.


(図3)(図4)

 キーパー根面板を有するオーバーデンチャー症例の口腔内,義歯粘膜面,そしてペーパーポイントによる細菌採取時の1例を(図3)に示します.今回の症例はすべてマグフィットキーパーを銀パラジウム金合金により鋳接して作製してあるキーパー根面板でした.インプラントキーパーを有するオーバーデンチャー症例の口腔内,義歯粘膜面,そしてペーパーポイントによる細菌採取時の1例を(図4)に示します.本学におけるインプラント治療は,すべてブローネマルクインプラントを使用しています.インプラントキーパーは19Cr-2Moの磁性ステンレスであるマグフィットキーパーと同材質のものを試作し,9年前より臨床試用しているものです.どちらの症例も磁石構造体は口腔内で義歯に接合しています.


(図5)(図6)

 炎症が生じているキーパー根面板(図5)と,インプラントキーパーの口腔内写真(図6)を示します.根面板周囲の歯周組織炎の判断は,発赤,腫脹があり,BOPがプラスのものとしました.また,インプラント周囲炎の判断は,発赤,腫脹がありインプラント体が動揺しているものとしました.周囲炎を起していた症例は,ブレードタイプ2例と,シリンダータイプ2例です.


(図7)(図8)

 炎症がない症例のキーパー根面板とインプラント歯肉溝内の細菌の比較を(図7)に,炎症が生じていた症例で,キーパー根面板とインプラント歯肉構内の細菌の比較を(図8)に示します.

 炎症のないキーパー根面板においてはPg,Bf,Td,Cr,Pi,Pnが検出され,インプラント歯肉溝内からは,Pg,Td,Cr,Ecが検出されました.炎症が生じている根面板の歯肉溝内からの細菌は,Pg,Td,Cr,Ec のみで,その菌数も9歯中4歯からのみでした.それに比べ,インプラント周囲炎においてはEc以外のすべての菌種が数多く検出されました.



 〜考察〜

 インプラントキーパーの症例において,インプラント周囲炎が生じている歯肉溝内からはEc以外の全ての菌が検出されました.周囲炎が生じていない歯肉溝内からは,逆にEcが多く検出されたという結果は,症例も少なく考察は困難ですが,口腔内におけるEcとインプラントの関係について今後さらに検討してみたいと考えています.


文  献

 

1) Mombelli A, Marxer M, Gaberthuel T, Grunder U, Lang NP. The microbiota of osseointegrated implants with a history of periodontal diseases. J Clin Periodontal 1995;22:124-130

2) Quirynen M, Listgarten MA. The distribution of bacterial morphotypes around natural teeth and titanium implants ad modum Branemark. Clin Oral Inpl Res 1990;1:8-12.

3) Baumgarten, H.S.Chiche,G.J. Diagonosis and evaluation of complications and failures associated with osseointegrated implants. Compendium of continuing Education in Dentistry1995;16:814-814

4)Becker,W.,Becker, B.E.,Newman,M.G.,Nymaqn,S. Clinical and microbiologic findings that may contribute to dental implant failure. International Journal of Oral &Maxillofacial Implants 1990;5:31-38

 

演者への連絡先
E-mail : 質疑応答の受付は終了しました
FAX : 質疑応答の受付は終了しました


質疑応答

[0001]
長澤 亨 (朝日大学歯学部補綴学講座 )
Tooru Nagasawa (Department of Prosthodontics, Asahi University School of Dentistry )

図7.8が不鮮明でよくわかりませんが、たとえばオーバーデンチャー症例で、磁性アタッチメントキーパーを装着したものと、通常のオーバーデンチャー根面板装着歯とで見られる細菌叢に差がありますか?

--- Fri Feb 9 11:52:03 2001

[0002]
東山 真理子 (愛知学院大学歯学部歯科補綴学第一講座 )
Mariko Higashiyama (The First Department of Prosthodontics,School of Dentistry,Aichi-Gakuin University )

 御質問ありがとうございます.今回は,キーパー根面板支台及びインプラントキーパー支台に関してのみ細菌叢を検出した為,キーパーのないオーバーデンチャー根面板支台に関してはデータがありません.今後の,研究の参考にさせていただきたいと思います.

--- Thu Feb 22 14:37:46 2001


プログラムへ戻る