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3回日本磁気歯科学会インターネット会議(2001年1月26日〜2月16日)

11 即日応用型キ−パ−の口腔内設置と義歯の着脱方向

―設置傾斜と吸引力との関係―

東京医科歯科大学  大学院医歯学総合研究科

口腔機能再構築学系専攻 摂食機能回復学講座 摂食機能構築学分野

水谷 紘,谷田部優,羽毛田匡,小竹雅人,西山 暁,大山喬史

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 


Setting Angle of Magnetic Keeper for Immediate Denture Repair and Path of Denture Insertion

- Relationship between Setting Angle of Keeper and Attractive Force -

Hiroshi Mizutani, Masaru Yatabe, Tadasu Haketa,                  Masato Kotake, Akira Nishiyama and Takashi Ohyama

Division of Oral Health Sciences, Department of Masticatory Function Rehabilitation, Section of Removable Prosthodontics, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University

1-5-45 Yushima Bunkyo-ku Tokyo Japan 113-8549

e-mail:質疑応答の受付は終了しました

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1.

スライド1: 即日応用型キ−パ−は通常のキーパーに脚を付着させたもので,接着性レジンやデュアルキュア型のコンポジットレジンを用いて直接歯に接着させ,その日のうちに使用するものであります.キ−パ−を加熱する必要がないためキ−パ−材の磁気特性や耐食性の劣化を招くおそれがなく,鋳造によるゆがみも生じません.診療時間や回数に制限のある在宅診療患者や緊急避難的な義歯修理症例に適用されます.

右スライドは現在入手可能な即日応用型磁性アタッチメントで,左よりルートキ−パ−,ポストキ−パ−,ポストキ−パ−用磁石構造体,ルートキ−パ−用磁石構造体です.

 
 

 

 

 

 

 


2.

    

スライド2: 一般的に,磁性アタッチメントを用いる場合,キ−パ−は,その吸着面が咬合平面と可及的に平行になるようサベヤー等を使用して設置します.しかし,上顎切歯や犬歯の歯根軸は臼歯群と異なり,咬合平面と直交しないケースが多々見受けられます.したがって,これらの歯に即日応用型キ−パ−を応用しようとすると,その吸着面が咬合平面と平行に設置できず,アンダーカットの生成や吸引力減少の招来が考えられます.

本実験の目的は,左スライドに示すごとく,磁石構造体がキ−パ−から離脱する際の傾斜角度が,吸引力に及ぼす影響を明らかにすることであります.そこで今回,右スライドに示すごとく

1.   キ−パ−の傾斜角度が垂直離脱時の吸引力に及ぼす影響

2.   キ−パ−の傾斜角度が回転離脱時の吸引力に及ぼす影響

 

以上の2点について検討を行いました.

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 


3.

    

スライド3: 先ず実験1について説明・報告致します.

実験方法: 試料は日立金属社製ハイコレックスポストキ−パ− 3513PK(以下ポストキ−パ−)および愛知製鋼社製マグネディスクR・ルートキ−パ−Sセット(以下ルートキ−パ−)各3個です.測定装置として,島津製作所社製オートグラフAGS−Hをクロスヘッドスピード0.5ミリパーミニッツという条件で用いました.付与した傾斜角度については左スライド最下段に示すごとく,0度から30度までを5度間隔の7段階とし,試料1個,1つの傾斜角度につき5回計測しました.

測定方法ですが,先ずキ−パ−をサベヤ−を使用してシグマ光機社製傾斜角度測定装置に取り付け,0度の時にキ−吸着面がサベヤーテーブルと平行になるようにします.次に右スライドに示すごとく,キ−パ−の中心軸と磁石構造体の中心軸とが一致するようキ−パ−上に磁石構造体を設置ののち,傾斜角度装置を所定の角度まで傾斜させます.この位置で磁石構造体をオートグラフに固定するため,磁石構造体とクロスヘッドの引っ張り部とを接着性レジン,常温重合レジンを使用して固定し,レジンの硬化を待って引っ張り試験を開始します.したがって,磁石構造体とクロスヘッドの引っ張り部との間の遊びは少ないと言えます.なお得られたデータについては分散分析,シェフェの多重比較検討を行い1%の有意水準で統計処理を行いました.

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  結 果

4. 

   

図4

スライド4: 左右スライドはクロスヘッドの移動距離と吸引力との関係を傾斜角度ごとに示した1例で左スライドが0度,5度,右スライドが25度,30度の結果で,いずれも縦軸に吸引力,横軸に移動距離を示します.

左スライドに示しますように傾斜角度が0度,5度ではほぼ同じ傾向を示しました.すなわち,移動距離0ミリでは吸引力は共に約5Nであり,以下移動距離が増すと吸引力は減少し,0.05ミリで1.8N,0.1ミリで約1Nの値を示し移動距離と吸引力との推移関係はほぼ同じでありました.

一方,右スライドは傾斜角度25度,30度の時の吸引力推移を表します.25度傾斜で移動距離0ミリ,0.05ミリ,0.1ミリの時の吸引力がそれぞれ4.1N,1.3N,0.7N,30度傾斜ではそれらが3.8N,1.1N,0.7Nと30度傾斜の時の方が吸引力は小さい値を示しました.

左右のグラフを比べてみますと,0ミリを含む観察したすべての移動距離において,吸引力の値が0度5度の方がより大きく,しかも,移動距離0ミリ,0.05ミリの範囲での曲線のカーブの立ち上がり傾斜が0度5度の方が弱い傾向が見られました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.

   

スライド5: 左右スライドはキ−パ−の傾斜角度と最大吸引力との関係を示したもので左がポストキ−パ−,右がルートキ−パ−です.各値は傾斜角0度の最大吸引力の平均を100とした相対値で表してあります.

左スライドのポストキ−パ−では,5度傾斜で0度傾斜よりやや大きい値を示しましたが,それ以外の傾斜角度では0度よりも小さい値を示しました.傾斜角度0度との多重比較検定では,5度,10度で有意差は認められませんでしたが,他の傾斜角度ではいずれも有意差が認められました.

右スライドのルートキ−パ−ではいずれの傾斜角度においても0度より小さい値を示しました.傾斜角度0度との統計学上の比較では,5度において有意差は認められませんでしたが,10度以上のいずれの角度においても有意差が認められました.

 
 

 

 

 

 

 

 

 


6.

   

スライド6: 次に実験2について報告致します.

実験方法: 試料は各試料間のばらつきが少ないことから,ポストキ−パ−およびルートキ−パ−各1個を用いました.測定装置や,キ−パ−傾斜角などについては左スライドに示すごとく実験1と同じであります.

測定方法については,先ずキ−パ−を傾斜角度測定装置に取り付け0度調整を行います.次に,右スライドに示すごとくキ−パ−と磁石構造体の中心軸が一致するよう磁石構造体を設置ののち,傾斜角度装置を所定の角度まで傾斜させます.この位置で試料の磁石構造体の非吸着面から最短距離で1ミリほど上方の位置に一端がマグネットの中心軸と一致し,かつ牽引方向と直交するよう直径1.5ミリの真鍮製ロッドを接着性レジン,常温重合レジンにより固定します.ロッド10ミの位置には刻み目が付与されておりこの位置に非磁性の金属フックをかけオートグラフで引っ張り試験を行います.

なお得られたデータについては実験1と同じ条件で統計処理を行いました.

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


7.

  

スライド7: 左右スライドはクロスヘッドの移動距離と吸引力との推移を傾斜角度ごとに示した1例です.

左スライドにありますように傾斜角度が0度では移動距離0ミリ,0.1ミリ,0.2ミリの時の吸引力がそれぞれおよそ0.58N,0.4N,0.3N,5度傾斜ではそれらが0.63N,0.45N,0.34Nと5度傾斜の方がいずれの距離においても大きい値を示しました.

一方,右スライドの傾斜角度25度,30度の時は,移動距離0ミリ,0.1ミリ,0.2ミリの時の吸引力がそれぞれおよそ0.75N,0.45N,0.38N,30度傾斜ではそれらが0.7N,0.48N,0.4Nと両者の最大吸引力に差は見られたものの,移動距離と吸引力との推移関係に大きな差は認められませんでした.

左右のグラフを比べてみますと,0ミリを含む観察したすべての移動距離において傾斜角0度の吸引力値が最小でした

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 


8.

   

スライド8: 左右スライドはキ−パ−の傾斜角度と最大吸引力との関係を示したもので左右いずれも青が垂直牽引,茶がロッド牽引であります.各値は実測値の平均を示します.

左スライドのポストキ−パ−の垂直牽引では0度の傾斜角度で4N程の吸引力を示し,傾斜角度5度で多少の増加傾向が認められるもののそれ以上の傾斜角度では傾斜角の増加と共に吸引力は減少しました.それに対して茶色で示されるロッド牽引では傾斜角度の増加にともない,むしろ増加傾向が認められました.しかし,その値は0.5Nから0.8Nと小さく,同じ傾斜角度の垂直牽引時の吸引力と比べると15から20%の値にすぎませんでした.

右スライドのルートキ−パ−もほぼ同じ傾向を示しました.青色で示される垂直牽引の最大吸引力は約5Nと最大で以下傾斜角度の増加に伴い吸引力は減少し右肩下がりの様相を呈しました.茶のロッド牽引においては左スライドと同様傾斜角度の増加にともない増加傾向も認められましたがその値は垂直牽引の13〜17%でした.

回転離脱を模した10ミリロッド牽引の値が小さいということは,僅かな力で磁性アタッチメント義歯の回転運動が起こりやすいということを示唆するものです.義歯設計上この回転運動に配慮した義歯設計が必要であるものと思われます.

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


9.

    

スライド9: キ−パ−の傾斜角度が垂直離脱や回転離脱時の吸引力に及ぼす影響を知る目的で,キ−パ−に種々の傾斜角度を与えた時の吸引力をオートグラフで牽引,測定し以下の結果を得ました.

垂直牽引

1.キ−パ−の傾斜角度が0度から10度の範囲では最大吸引力に大きな違いはみられませんでした.

2.キ−パ−の傾斜角度が15度以上になると最大吸引力は角度の増加と共に減少しました.

牽引による移動距離が等しい場合キ−パ−の傾斜角度が大きいほど吸引力は大きく減少しました.

 

 

ロッド牽引

1.最大吸引力は垂直牽引の10から20%に相当しました.

2.キ−パ−の傾斜角度が増加すると最大吸引力が増加する場合も認められました.

(これは牽引時の磁石構造体のすべりが一因と思われました)

                               以上

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

1.水谷 紘,門山訓丈,藍   稔他:磁性アタッチメントの面積および設置位置の違いが吸引力に及ぼす影響.日本磁気歯科学会雑誌,1: 61-70, 1992.

 

2.中村好徳:有限要素法によるオ−バ−デンチャ−と磁性アタッチメントの力学的解析.日本補綴歯科学会雑誌,42(2): 234-245, 1998.

 
 

 

 

 

 


質疑応答

[0001]

木村 幸平 (東北大学大学院歯学研究科咬合機能再建学分野 )

Kohei Kimura (Tohoku University Graduate School of Dentistry Division of Fixed Prosthodontics )

1.文章枠 スライド5の上の図の上部が前の文章枠で消されています

2.スライド1以外はプリントアウト出来ません

--- Tue Feb 6 15:09:13 2001

 

[0002]

細井紀雄 (鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座 )

Toshio Hosoi (Removable Prosthodontics, Tsurumi University School of Dental Medicine )

質問1.ポストキーパーとルートキーパーで垂直けん引とロッドけん引で吸引力について統計学的に有意差は認められましたか.

質問2.本実験から上顎左右犬歯残存にルートキーパーを支台としたオーバーデンチャーを装着する場合,維持力の減少を防ぐためにどのような方法が考えられますか.

--- Sat Feb 17 19:38:58 2001

 

[0003]

水谷 紘 (東京医科歯科大学 大学院摂食機能構築学分野 )

Mizutani, Hiroshi (Graduate School, Tokyo medical and Dental Univ. Section of Removable Prosthodontics )

細井先生 ご質問ありがとうございます。

質問1ですが ポストキーパー、ルートキーパーともすべての傾斜角度において垂直牽引とロッド牽引の間に1%の有意水準で有意差が認められました(分散分析、シェフェの多重比較検討)。

質問2については ロッド牽引における吸引力が最大吸引力の20%程度であるということは、磁性アタッチメントそのものは義歯の回転に対して抵抗を示さないということです。ロッドの長さが10ミリより長くなればもっと小さな力で外れてしまいますが、これが磁性アタッチメントのメリットでありデメリットでもあるわけで、良く言えば義歯の横揺れや回転を支台歯に伝えないということです。ですから、この横揺れや回転を抑制するためには、根面板の高さを高くするなど根面板の形態に考慮が必要です。もし別の残存歯があるならフックやレストなどを設置するというのも良い方法だと思います。

--- Mon Feb 19 15:22:52 2001

 

[0004]

水谷 紘 (東京医科歯科大学 大学院摂食機能構築学分野 )

Mizutani, Hiroshi (Graduate School, Tokyo medical and Dental Univ. Section of Removable Prosthodontics )

木村先生 ご質問ありがとうございます。

 インターネットの知識については十分持ち合わせがありませんのでこれでお許し下さい。ちなみに私どもの他のPCではそういった不都合は出ておりません。また、私のPCで他の演題のポスターを見ますと図が欠落していたり不鮮明であったりするものが多々見受けられます。これらインターネット上でのトラブルについてはインタネット委員会の方へ報告、相談してみたらいかがでしょう。

--- Mon Feb 19 15:40:51 2001

 

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