プログラムへ戻る

12.CAD/CAMによるキーパー根面板の製作法

Fabrication of a Keeper Coping use of the CAD/CAM System

○津田賢治,金澤 毅,田中貴信,中村好徳,石田 隆,服部正巳*,濱田 弘顕**,太田 学**
○Kenji Tsuda,Takeshi Kanazawa,Yoshinobu Tanaka,Yoshinori Nakamura,Takashi Ishida,Naoko Muraji,Tatsuhiko Masuda,Masami Hattori*,Hiroaki Hamada**,Manabu Ota**

愛知学院大学歯学部歯科補綴学第一講座
The First Department of Prosthodontics,School of Dentistry,Aichi-Gakuin University

*愛知学院大学歯学部歯科補綴学第二講座
*The Second Department of Prosthodontics, School of Dentistry, Aichi-Gakuin University

**株式会社アドバンス
**Advance Co., Ltd., 

E-mail: 質疑応答の受付は終了しました


 

1.はじめに

 我々は,磁性アタッチメントシステムへのCAD/CAMの応用を目標として種々の検討を行っています.現行の歯科用CAD/CAMシステムにおいて,ポスト形態を持つ補綴装置の製作は困難とされており,根面板などの製作法はいまだ示されていません.

 (図1)(図2)に第103回日本補綴歯科学会学術大会において報告した,「CAD/CAMによる根面板と歯型との適合性についての検討」の概要を示します.(図1左)は,歯科用CAD/CAMシステムにて,計測用パターンの形状計測を行っている様子です.パターンは根面板を想定したもので,マージン部を持つ金属円板と,既製ポストを常温重合レジンにて一体化したものです.このようにして得られた形状データから,チタンブロックを切削加工することによって,(図1)の右のような試料を製作しました.(図2)は石膏歯型に試料を装着したものの断面像です.マージン部,ポスト先端部などにおいて,良好な適合状態を示しています.試料と歯型の間隙量はおおむね100μm以下の適合が得られており,CAD/CAMによる根面板製作の可能性を示しました.

(図1) (図2)

 今回は,歯科用CAD/CAMシステムデンタルCadimに新たに開発されたプログラムを導入し,キーパー根面板がCAD/CAMのみで製作することが可能となったので報告いたします.

 (図3)に歯科用CAD/CAMシステムDental Cadimを示します.DentalCadimはコンピュータ内に形状データを取り込み,その形状をならい加工することで補綴装置を作り出します.「デンタルCadim」は形状データの取り込み方式として,(図4)のように,接触式の計測法を採用しています. 計測は,パターンの咬合面側からと,支台歯側からの2回に分けて行います.すなわち,咬合面側の計測を行い,続いて,パターンを180度反転させ,支台歯側からも計測を行い,パターン全体の形状データを採得します.このように,従来の方法では,製作物の全ての形状を計測用パターンにて製作する必要がありましたが,今回,新たにプログラムを導入し,咬合面側の形態は,CADによりコンピュータ内で作成することが可能となりました.

(図3) (図4)

2.製作手順

 以下,実際の製作手順を紹介します.(図5)に,使用した下顎模型と,支台歯形成が終了した状態を示します.Dental Cadimは計測時および切削時において先端半径が0.5mmのインスツルメントを用いて補綴装置を作るシステムであるため,それ以下の隅角は再現することができません.そのため,支台歯形成は,メーカー指示に従い,隅角部をラウンド形成とします.続いて,通法に従い精密印象採得を行ったのち,分割復位式の作業用模型を製作します.

 (図6左)に,作業用模型上で製作した,計測用パターンを示します.計測用パターンは,常温重合レジンと既製ポストを併用して製作しました.パターンに必要なのは,支台歯側の形状のみです.

 続いて,Dental Cadimにて計測用パターンの支台歯側のみを計測し,形状データを取り込みます.(図6右)にパターンから取り込まれた形状データを示します.

(図5) (図6)

 (図7)に咬合面側の形態のCADを行っている様子を,(図8)にはそのシェーマを示します.緑で示されるのは計測用パターンから取り込んだ形状データで,赤で示されるのがCADソフトにて,自動的に作成された咬合面側のデータです.咬合面側データは,「カラー厚さ」,「テーパー角」,「咬合面側高さ」の3つのパラメータを任意に設定することで得られます.すなわち,マージンから「カラー厚さ」で設定された位置に根面板の最大豊隆部が決定されます(図7では上の赤線です.)更に「テーパー角」と「咬合面側高さ」により,咬合面側の上面が決定されます.(図7では下の赤線です.)このようにして,咬合面側のデータが作成されます.

(図7) (図8)

 (図9左)に,作成された咬合面側データを示します.(図9右)は,キーパースペースの位置の設定を行っている様子です.事前に作成されたキーパースペース用データを任意の位置に配置し,両データを合成することで,咬合面側データにキーパースペースを付与します.(図10左)はキーパースペースが付与された咬合面側データです.スペースの形態はキーパーに合わせて自由に作成することができ,各種磁性アタッチメントシステムに対応することができます.更に,切削に必要なリブのデータなどを加えます.(図10右)は完成した咬合面側データです.

(図9) (図10)

 (図11)に支台歯側,(図12)には咬合面側の最終的なCADデータを示します.支台歯側のデータは計測用パターンの形状から取り込まれたもので,咬合面側のデータは全てコンピュータ内でデザインされたものです.このようにして作成した形状データを用いて,チタンブロックを切削加工します.切削は粗削りと仕上げ削りの2段階で行い,切削時間は3時間程度でした.

(図11) (図12)

 (図13)に切削が終わったキーパー根面板の支台歯側および咬合面側を示します.支台歯側は計測用パターンの形状が再現され,咬合面側には,キーパースペースが付与されています.

 (図14)に,模型への試適の様子を示します.チタン根面板と支台歯模型とは良好な適合を示します.根面板のマージン部はレジンパターンの形状が再現され,根面板部はCADによる,均一なテーパー角を持った形状で製作されています.この後,リブの切断,研磨,および,キーパーのセメント合着を行います.

(図13) (図14)

 (図15)に,キーパー根面板の完成を示します.向かって左の根面板には,キーパーをセットしてあります.

(図15)

3.CAD/CAMによるキーパー根面板の特徴

・既製のブロックから削りだす事で補綴装置を製作するシステムであるため,いわゆる鋳造に伴うトラブルはありません.

・咬合面側の形状はCADソフトウェアにより,自由な設計が可能です.

・チタンをはじめ,セラミックやコンポジットレジンなど,多様な材質が利用可能です.

 



文  献
1) Gillings,B.R.D.:Magnetic retention for complete and partial overdentures,Part1. J. Prosthet. Dent.,45(5):484-491,1981.
2) Jackson, T.R.:The application of rare earth magnetic retention to osseointegrated implants. Int. J. Oral & Maxill. Imp.,1:81-92,1986.
3)田中貴信:磁性アタッチメント ー磁石を利用した新しい補綴治療ー,医歯薬出版梶C東京,1992.
4)田中貴信:マグフィットシステム ーその臨床活用の要点ー,デンタルダイヤモンド社,東京,1993.
5)田中貴信:続磁性アタッチメント ー108門108答ー,医歯薬出版梶C東京,1995.
6)水谷 紘,石幡伸雄,中村和夫:磁性アタッチメントを用いた部分床義歯,クインテッセンス出版梶C東京,1994.
演者への連絡先
E-mail : 質疑応答の受付は終了しました
FAX : 質疑応答の受付は終了しました

質疑応答

[0001]
木村 幸平 (東北大学大学院歯学研究科 咬合機能再建学分野 )
Kohei Kimura (Tohoku University Graduate School of Dentistry Division of Fixed Prosthodontics )

1.キ−パ−を削りだす方法で製作するのは、いわゆる鋳造に伴うトラブルを回避する観点から優れており有効な方法であると思います.今後キ−パ−根面板を一体として製作する事についても検討頂きたい.
2.図の細部が見にくいので、図の拡大等の工夫がほしい.

--- Sat Feb 10 12:21:47 2001

[0002]
細井紀雄 (鶴見大学歯学部歯科補綴学第一講座 )
Toshio Hosoi (Removable Prosthodontics, Tsurumi University School of Dental Medicine )

質問1.根面板と模型との適合性についてCAD/CAMと鋳造で比較したデータがありましたら教えてください.
質問2.キーパーはセメント合着されますが,長期使用で根面板からの脱離の可能性は考えられますか.

--- Sat Feb 17 19:43:57 2001

[0003]
津田 賢治 (愛知学院大学歯科補綴学第一講座 )
Kenji Tsuda (The First Department of Prosthodontics, School of Dentistry, Aichi-Gakuin University )

ご質問ありがとうございます.以下ご参考になれば幸いです.
[0001]質問1:
 キーパー一体型の根面板の製作は,すなわち磁性金属のCAD/CAM加工を意味すると思いますが,加工自体は難しくないと思います.
 クリアすべき問題は漏洩磁場などの生体への影響だと考えます.
[0001]質問2:
 WEB上での発表ということもあり,見づらいことをおわびします.
[0002]質問1:
 今後の課題であると思いますが,鋳造に関しては議論され尽くされた感があり,新たな技術であるCAD/CAMのデータを増やすことが急務と考えます.
[0002]質問2:可能性はあると思いますが,もし脱離しても再着は難しくないでしょう.逆に「外すことができるメリット」の方が大きいと考えます,

--- Wed Feb 21 19:30:13 2001


プログラムへ戻る