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磁性ステンレス鋼の歯科鋳造に関する基礎的検討 第3報

−機械的性質ならびに適合精度−

 

〇相田光治郎,羽岡克規,菅野太郎,木村幸平,高田雄京*,奥野 *

 

東北大学大学院歯学研究科口腔機能再建・材料学講座,咬合機能再建学分野,*歯科生体材料学分野

 


I.緒言

 我々は,磁性合金を歯科鋳造し,磁力を維持力とする可撤式クラウン・ブリッジの開発を行っており,現在まで,外冠の磁性材料として選択した白金鉄系磁石合金については諸検討が行われ,臨床応用の可能性があることが判った。そして内冠の材料として磁性ステンレス鋼のなかで耐食性が良好と考えられ磁性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼SUS447J1を考えている.本研究の目的は,この内冠の材料として考えられている磁性ステンレス鋼SUS447J1の歯科鋳造に関する検討を行うことである.

図.1 現在開発中の可撤式クラウン・ブリッジについて

 これまで我々は,市販の6種の埋没材を使用して磁性ステンレス鋼SUS447J1を鋳造し,その鋳造体の鋳込み率と表面粗さの測定を行い最適な埋没材の選定を行った.さらにその鋳造体に各種熱処理を加え,磁気特性に与える影響と外冠の材料である白金鉄系磁石合金との間の吸引力の測定を行った.今回は,磁性ステンレス鋼SUS447J1鋳造体の機械的性質(硬さ,引張り強さ)測定と適合精度を測定し,基礎的検討を行った.

図.2 実験項目

II.実験方法と結果


 実験に用いた磁性ステンレス鋼は,高純度フェライト系ステンレス鋼SUS447J1を使用した.埋没材は,チタン用埋没材,チタベストCB(モリタ)を用い,高周波加圧鋳造機アルゴンキャスターTにて鋳造した.

図.3 実験材料

1.機械的性質

測定項目と方法

 図.4に示す条件において,硬さ試験は微少硬さ試験機,引張試験はオートグラフを使用して測定した。なおこの実験では,それぞれ5個ずつ鋳造により試料を製作した.

図.4 機械的性質の測定項目と方法

測定結果

 図.5において,黄色グラフはSUS447J1の鋳造体,青のグラフは参考として昭和電工株式会社の既製(展伸材)のSUS447J1のデータを示す.硬さは229で,コントロールの既製のものと比較すると大きな値を示した.引張強さは506Mpa,伸びは10.7%で,コントロールと比較すると,引張強さは同程度の値だったが,伸び率は小さい値を示した.

図.5 機械的性質の測定結果

2.適合精度と表面粗さ

測定方法

 図.6の(1)に示す金型原型に(2)に示すようにワックスを圧接し,クラウン形状のワックスパターンを製作し埋没,鋳造した。なお埋没材TVの粉液比を標準メーカー指示値の0.15,最小メーカー指示値の0.13,練和可能限界の0.12と変えて,1つの紛液比において5個ずつ製作した.

 表面粗さは,標準メーカー指示値の0.15において埋没・鋳造した5つの試料を使用し測定した.測定部位は,鋳造冠内面の軸面部5箇所とし,平均値をその値としまし,なお12%金銀パラジウム合金を通法に従って鋳造した試料と比較検討した.

図.6 適合精度と表面粗さの測定方法

表面粗さの測定結果

 試料の中心平均粗さ Raは1.47μmで最大高さ Rmaxは15.1 μmだった.これは,コントロールの12%金銀パラジウム合金と比較するとRa,Rmax共に2倍近い大きな値を示した.

図.7 表面粗さの測定結果

適合精度の測定方法

 試料のなかで金型に戻す際に小さくなりきつかったものは,図.8の左側に示す部位Aすなわち金型と試料ショルダー部の間隙量を測定しスライドに示す算出式により収縮率を求めた.

 反対に大きくなり緩くなった試料に関しては,図.8の右側に示すように鋳造冠の内面にブラックシリコーンを塗布し,金型に適合させ,その厚みを測定した.測定部位は,スライドに示す9箇所とし,それぞれを平均し,各部位の値とした.

図.8 適合精度の測定方法

適合精度の測定結果

 各条件においてきつくなったものはのはマイナス,フリクショナル・フィットのものはプラス・マイナス,ゆるくなったものものはプラスとして各試料ごとに示している.紛液比0.15と 0.13では,それぞれの5つの試料全てきつくなり,その平均寸法変化率は−0.1%だった.紛液比0.12では1つの試料でははきつくなくなったが,のこりの4つの試料は緩くなった.なおコントロールの12%金銀パラジウム合金は, 1つを除いてフリクショナル・フィットの状態だった。

図.9 適合精度の測定結果

 図.10は緩かったSUS447J14個とfrictional fitの12%金銀パラジウム合金4個の試料内面のブラックシリコーンの厚さを示す.緑で示したSUS447J1は測定部位(1)(2)の辺縁部と(3)から(7)の軸面部は約20から30μmと赤で示した12%金銀パラジウム合金より10から15μm大きくなったが,(8)(9)の咬合面部は約30から40μmと12%金銀パラジウム合金と同程度の値だった.

図.10 鋳造体内面の間隙測定結果

  以上の結果より,磁性ステンレス鋼SUS447J1は埋没材の紛液比を変える事で鋳造体の寸法をある程度コントロールできることが判った.しかしメーカー指示範囲内での紛液比では全て低くなり,限界の粉液比0.12においては練和時の粘稠度がかなり低く埋没操作が困難で,また鋳造冠の内面に変形が観察された。よって今後検討の余地があると思われる.

III.まとめ

 以上の検討結果より,図.11に示す事が判った.

図.11 まとめ


演者への連絡先

E-mail : 質疑応答の受付は終了しました
Fax : 質疑応答の受付は終了しました


質疑応答


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