年齢,性別の調査結果を図1に示す. 年齢は,70歳以上が60%を占め,以下60歳代,50歳代,40歳代の順となった. 性別は女性が81%と圧倒的に多く,男性が19%となった. 装着部位,支台歯の機能期間の調査結果を図2に示す. 装着部位は,前歯部が71%,臼歯部が29%を示した.前歯部では下顎犬歯が最も多く,臼歯部では上下顎ともほぼ同等の割合を示し,特に使用頻度の高い歯種はなくすべてに適用されていた. 機能期間は,抜歯された支台歯では抜歯に至るまでの期間,残存している支台歯ではリコール時点までの期間を示している.31歯中10歯,32%が抜歯されており,早期では2年,平均では4年6カ月で抜歯に至っていた. 抜歯支台歯,残存支台歯,両者を合計した機能期間は6年から8年間が45%を示し,次いで8年以上,4年から6年,2年から4年の順となり,6年から8年以上の長期間が約75%を占める結果となった. | |||
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図 1 | 図 2 | ||
ポケットの深さ,支台歯の動揺の調査結果を図3に示す. 歯周ポケットの深さ,支台歯の動揺は総合的に判断すると,術後に症状が急激に進行した症例もわずかに存在したが,その発現頻度は低く,術前とほとんど変化がない症例が過半数以上を占めた. 義歯の破折,マグネット・キーパーの脱離の調査結果を図4に示す. 義歯の破折,マグネット・キーパーの脱離は,無しが約70〜80%を占めていた. 義歯の破折においては,マグネットおよびキーパーが関与して破折した症例は少なく,磁石構造体と義歯床との接着に用いたレジンの劣化と考えられるものや,患者さんの不注意等によるものが多くあった. マグネット・キーパーの脱離に関しては,マグネットのみの脱離が多く,23%を示した.これは,義歯床への接着術式の不備も考えられるが,症例選択におけるクリアランス不足,支台歯の選択ミス等による義歯破折に付随して脱離した症例がほとんどであった. | |||
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図 3 |
図 4 | ||
以下,代表例を供覧する. | |||
長期残存例(図5a,b) | |||
本症例は,磁性アタッチメントを装着し定期的にリコールを行い,約8年間特に問題もなく現在も経過良好な症例である.装着時と現在の状態を比較すると歯肉の退縮は認めらるが,支台歯の動揺,歯槽骨の吸収,深いポケット形成等はなく,咬合状態,粘膜面の適合も良好で経過してる. |
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図 5a |
図 5b |
義歯破折例,人工歯脱落例(図6,7) | |
いずれもの症例も上顎前歯部に磁性アタッチメントを適用したものであるが,事前の診査が不十分であったため,支台歯と対合歯との垂直的間隙量が少なく,結果この部分の義歯床が菲薄になり,応力が集中し破折ならびに人工歯脱落が生じたものと考えらる. しかし,臨床的にはそのことを十分理解し,金属による補強などを行えば未然に対処することは可能と思われる. | |
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図 6 |
図 7 |
早期抜歯例(図8) | |
装着後約2年後に抜歯になった症例である. 問題点は,支台歯間が非常に近接しており,患者自身による口腔清掃が困難であったためと推察される. 実際リコール毎に支台歯間の辺縁歯肉が非常に腫脹しており,このように条件の悪い歯根への適用は慎重に検討する必要がある. | |
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図 8 | |
結 論 | |
今回,オーバーデンチャーの支台装置として患者16症例,31歯に装着した初期型マグフィットの経過観察を少数ではあるが行った.その結果,以下の結論を得た. 1) 年齢は70歳以上が60%を占め,性別は女性が81%と圧倒的に多くなった. 2) 装着部位は前歯部が71%,臼歯部が29%を示した. 3) 現在も機能している支台歯が約70%,喪失していた支台歯が約30%であった. 4) 機能期間は6年から8年間が45%を示し,次いで8年以上,4年から6年,2年から4年の順となった. 5) 歯周ポケットの深さ,支台歯の動揺は総合的に術前とほとんど変化がない症例が過半数以上を占めた. 6) 義歯の破折,マグネット・キーパーの脱離は,無しが約70〜80%を占めた. 磁性アタッチメントの使用初期には,骨植不良歯,動揺歯,短根歯など悪条件の支台歯へも応用していたことを考慮すると,今回の結果は比較的良好な結果と思われる. | |
文 献 | |
1) 野崎乃里江,田中貴信,出崎義規,ほか:磁性アタッチメントのレジン義歯床の曲げ強さに及ぼす影響, 日磁歯誌,8(1):63-69,1999. 2) 長澤 亨,都尾元宣,浅野彰夫,ほか:義歯に応用する磁性アタッチメントの原則, QDT YEAR BOOK,103-105,1999. 3) 松浦広興,鈴木 温,板東永一,ほか:本学歯学部附属病院補綴診療科における磁性アタッチメント臨床経過 調査,日磁歯誌(第5回学術大会講演抄録集),21,1995. 4) 駒中美江,荒井一生,本蔵義信,磁性アタッチメントの術後調査結果のまとめ, 日磁歯誌(第5回学術大会講演抄録集),21,1995. | |
質疑応答 [0001] 越野 寿 (北海道医療大学歯学部歯科補綴学第1講座 ) Hisashi KOSHINO (Health Sciences University of Hokkaido ) koshino@hoku-iryo-u.ac.jp 以下の2点についてお教え下さい。 1.被験者の性別構成に関して、女性が81%と圧倒的に多かった特別な要因は在るのでしょうか。 2.予後観察に関して、維持力を発揮しない通常の根面板、あるいは機械的な維持を発揮する根面アタッチメントとの比較データが在りましたらお教え下さい。 --- Fri Feb 1 11:57:27 2002 [0002] 石上 友彦 (日本大学歯学部補綴2 ) Tomohiko Ishigami (Nihon Univ. School of Dentistry ) ishigami-t@dent.nihon-u.ac.jp 岸井先生へ 越野先生の質問に対する応答を掲示板にお願いいたします。 --- Wed Feb 6 18:37:13 2002 [0003] 岸井次郎 (朝日大学歯学部歯科補綴学講座 ) Kishii Jiro (Department of Prosthodontics,Asahi University School of Dentistry ) jiro@dent.asahi-u.ac.jp 質問1に対する回答 今回の研究報告では,マグフィットEX400/600のみを対照としたため,被験者数ならびに被験個数が非常に少なくなり,結果的にデーターのかたよりが生じ,男女間に差が現れたと考えられます. 質問2に対する回答 申し訳ありませんが,ご質問に記すような予後観察を比較したデーターはございません. --- Thu Feb 7 09:18:44 2002 [0004] 木内 陽介 (徳島大学工学部 ) Yohsuke Kinouchi (Faculty of Engineering, The University of Tokushima ) kinouchi@ee.tokushima-u.ac.jp 1.長期使用で磁石構造体あるいはキーパそのものに、機械的変形は見られませんでしたか。 2.近年、磁性アタッチメントの信頼性、耐久性は向上してきたと思いますが、臨床的観点から、今後、平均的に何年ぐらい使用できることを期待されますか。 --- Tue Feb 12 19:51:54 2002 [0005] 岸井次郎 (朝日大学歯学部歯科補綴学講座 ) Kishii Jiro (Department of Prosthodontics,Asahi University School of Dentistry ) jiro@dent.asahi-u.ac.jp 質問1に対する回答 現在も機能している長期使用例の磁石構造体ならびにキーパーには,肉眼的において機械的変形および腐食等は認められないです. 質問2に対する回答 今回の調査結果による機能期間では,6年から8年以上の長期残存例が約75%を占める良好な結果となりましたが,これは患者さん自身の口腔清掃の徹底ならびに定期的なリコールが確実に行なわれていたためと考えられます. ゆえにこのような事が確実に守れるならば,臨床的には約10年位は使用可能かと考えております. --- Wed Feb 13 16:30:26 2002 岐阜県本巣郡穂積町穂積1851-1 朝日大学歯学部歯科補綴学講座 岸井次郎(jiro kishii)
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