[プログラムへ戻る]
スプリットポール型磁性アタッチメントの特性
Characteristics of a split pole type of magnetic attachment
○向井雅彦,手川歓識*,木内陽介
Masahiko Mukai,Yoshinori Tegawa*,Yohsuke
Kinouchi
徳島大学工学部電気電子工学科
*徳島大学医学部保健学科
Department of
Electrical and Erectronic Engineering,The University of Tokushima
*School
of Health Sciences,The University of Tokushima
I
はじめに
現在では、磁性アタッチメントが臨床的に多く使われるようになった。しかし、これらを構成する磁石構造体とキーパーとの間に隙間が生じると吸引力が低下するため、復元力の大きいものが求められている。これまでに筆者らは、復元力の大きい磁性アタッチメントとして、スプリットポール型を改良したスプリットポール3磁石型[1]を提案しその特性を報告した。しかしこれは磁化方向の異なる3つの磁石を用いるため、製造が困難である。そこで、スプリットポール型の構造を複雑にすることなく、吸引力,復元力の改善を図ったものが今回提案する斜め磁化スプリットポール型磁性アタッチメントである。
II
解析について
図1に斜め磁化スプリットポール型の構造を示す。解析には磁石高さ,スリット幅および磁石の磁化角度を変化させ最適形状を求め、最適形状における特性を解析した。またその特性の比較対象として市販型であるカップ型、サンドイッチ型、これまでに提案されたスプリットポール3磁石型およびシリンダ型[2]を用いた。特性比較を行うすべてのタイプの磁性アタッチメントの条件を同じとして解析を行った。
外形は標準的な形状とし、磁石構造体およびキーパーの直径を4.0mm、それぞれの高さは1.5mmおよび1.0mmとした。また磁石はNd-Fe-B(Br=1.3T)、軟質磁性材料は磁性ステンレス(Br=1.3T、μr=5000)の特性を用いた。解析にはモーメント法による三次元静磁場解析プログラム(MAGNA/JIBA:CRCソリューションズ)を用いた。
![[図1 斜め磁化スプリットポール型の構造図]](mukai.files/stracture.jpg) |
図1 斜め磁化スプリットポール型の構造図
III
解析結果
図2にスペーサ幅を0.4mmに固定し、磁石の高さをパラメータとしたときの磁化角度と吸引力の関係を示す。(a)は磁石構造体とキーパーの間のギャップが無いとき、(b)は0.1mmのギャップが存在するときの特性を表している。
ここで、斜め磁化スプリットポール型においては“吸引力,復元力ともに優れているもの”を目指しているため、ギャップの生じたときの吸引力も考慮した評価関数(1)式を用意し、この評価関数の値の最も大きくなる磁石高さおよび磁化角度を最適形状とした。これより、磁石高さ0.6mm、磁化角度15°を最適形状とする。
![[図2 磁化角度−吸引力特性]](mukai.files/characteristics.jpg) |
図2 磁化角度−吸引力特性
次に、上で決めた2つのパラメータを固定した状態でスリット幅を変化させ最適幅を求めた。図3にスペーサ幅と吸引力の関係を示す。それぞれ磁石構造体とキーパーのギャップが0.0mm
、0.1mmの時の特性を表している。図に示す2つの曲線の条件の良いところをとることにより、スペーサ幅0.4mmを最適幅とした。
以上のことより、磁石高さ0.6mm,磁化角度15°,スペーサ幅0.4mmを斜め磁化スプリットポール型の最適形状とする。
![[図3 スペーサ幅−吸引力特性]](mukai.files/characteristics2.jpg) |
図3 スペーサ幅−吸引力特性
図4において、各種磁性アタッチメントの最適形状を用いてのギャップ−吸引力特性,ギャップ−復元力特性を比較する。(a)においては、スプリットポール3磁石型より劣るものの、市販型より優れた特性を得られた。(b)の復元力とはギャップが0.0mmのときの吸引力を100としたときの吸引力の割合を表すもので、スプリットポール型とほぼ同等のものを得られた。
![[図4 特性]](mukai.files/restoring.jpg) |
図4 特性
IV
まとめ
スプリットポール型を改良することで吸引力および復元力の改善を図った。その結果、斜め磁化スプリットポール型磁性アタッチメントは、スプリットポール3磁石型に比べ、
構造が簡単でありながら、
と言うことができる。また復元力が大きいことから、残存歯および歯科補綴物の長期利用が可能なことや,高齢者による歯科補綴物の適正な位置への装着が容易になると思われる。
文 献
[1] 手川歓識,木内陽介:スプリットポール型磁性アタッチメントとその特性,日磁誌,6(1):44-49,1997
[2]
手川歓識,木内陽介:シリンダ型磁性アタッチメントの維持力の特性解析,日磁誌,8(1):48-56,1999
向井 雅彦
Masahiko, MUKAI
E-mail : (質疑応答の受付は終了いたしました。)
質疑応答
[0001] 奥野 攻 (東北大学大学院 歯学研究科
歯科生体材料学分野 ) Osamu Okuno (Division of Dental Biomaterials,
Graduate School of Dentistry, Tohoku Univ.
) okuno@mail.cc.tohoku.ac.jp 磁石の磁化の角度を付けるアイディア、大変素晴らしいものと存じます。いま解析ではギャップを0.1mmとして最適化をされておられますが、もう少しギャップが大きいときを想定して解析をされると磁化の角度はさらに15°より大きくなると考えて良いのでしょうか。ギャップ0の時の吸引力が高いことは実用的には意味にない可能性があります。ギャップ0.2mm、0.3mm---とか、もう少し大きいところを想定して、最適化された解析結果がございましたら教えてください。
また、図4(b)の「復元力」は単位は無いので「復元率」とか「復元比」としていただいた方が分かりやすいように思いますが、いかがでしょうか。
--- Tue Feb 5 20:31:59 2002
[0002] 向井 雅彦 (徳島大学工学部電気電子工学科
) Masahiko Mukai (Department of Electrical
and Erectronic Engineering,The University
of Tokushima ) m-mukai@ee.tokushima-u.ac.jp
御質問ありがとうございます。 現段階では、0.0mmおよび0.1mmギャップで最適化を行っています。しかし、よりギャップが大きい状態を考えたとき、磁化角度の大きくしたほうがキーパーに対しより垂直に磁束が流入し、吸引力は大きくなるように思われます。以下のイメージもご参照ください。
イメージ http://www-cc.ee.tokushima-u.ac.jp/~m-mukai/jmd/image.html
これから0.1mmより大きいギャップについて最適角度を求めてみたいと思います。
また0.0mmギャップ時の吸引力についてですが、磁性アタッチメントの更なる小型化を考えたとき、ギャップ0.0mmのときの吸引力もひとつの指標として重要であると考えます。
復元力という表現の仕方について、奥野先生の意見はもっともだと思います。これからは、「復元率」または「復元比」の表現を使わせていただこうと思います。
--- Thu Feb 14 20:49:04 2002
プログラムへ戻る