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神経様PC12細胞に及ぼすELF磁界の影響

Effects of ELF Magnetic Fields on Neuronal PC12 cells

○村戸良平,朴基豪,木内陽介,池原敏孝*,細川敬子*,山口久雄*,

吉崎和男*,芳地一**,宮本博司***

○R.Murato, K.H.Park, Y.Kinouchi, T.Ikehara*, K.Hosokawa*, H.Yamaguchi*, K.Yoshizaki*, H.Houchi**, H.Miyamoto***

徳島大学工学部

*徳島大学医学部

**徳島大学医学部附属病院薬剤部

***徳島文理大学

Faculty of Engineering, The University of Tokushima

*Department of Physiology, School of Medicine, The University of Tokushima

** Department of Pharmacy, School of Medicine, The University of Tokushima

***Tokushima Bunri University


  1. 1. はじめに

 近年、我々の身の回りには携帯電話や医療機器など、様々な電気電子機器が存在している。最近、これらの機器などから発生する電磁界が人体におよぼす影響についての社会的な関心が高まっている。そのような状況の中で、磁界曝露が細胞内メカニズムに及ぼす影響について数多くの報告がなされてきた。また既に電磁界を生体の治療目的に利用している試みもある。その一例として、ELF(Extremely Low Freqency)領域のPEMF(Pulsed Electro-Magnetic Field)刺激が、骨折部癒合の補助手段として用いられている。しかし、磁界の生体作用メカニズムは未だ明らかになっていない。そこで本研究では、磁界曝露が細胞の分化誘導機構に及ぼす影響について調べた。今回はラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞を2-3日増殖培養後、神経突起の生成を促進させる薬剤として知られているNerve Growth Factor (NGF)を細胞に添加し、さらに培養液中のK+濃度を高めた状態で48時間まで曝磁を行なった。


 図1に本実験に用いた磁界発生装置を示す。ソレノイド型コイルを上下垂直に配置し、細胞に対して垂直に磁界を作用させた。また、磁界発生装置内に恒温水を循環させ、細胞を常に37.0±0.2[℃]に保ったまま曝磁実験を行なった。さらに曝磁開始前に恒温用インキュベータ内に5%CO2, 95%Airの混合がスを約20分通気し、培養液を曝磁中一定のpH(7.2〜7.4)に保った。


 まずPC12細胞を2〜3日間市販のCO2培養装置で培養した後、曝磁開始前に細胞の突起を誘導する薬剤として知られているNerve growth factor(NGF)を細胞に添加し、60[Hz], 3[mT]のELF磁界にて48時間まで曝磁した。曝磁終了後に細胞の形態を顕微鏡にて観測し、突起の長さを測定した。


 まず曝磁実験を始めるにあたり、高K+濃度下での細胞内Ca2+濃度の変化を測定した結果を図3に示す。この結果より培養液中のK+濃度を高めることで、細胞膜を介するCa2+の流入のみ促進することが分かる。この機構に及ぼす磁界の影響について実験を行なった。

 顕微鏡で撮影したPC12細胞の画像を図4、図5に示す。図4に対照群、図5に曝磁群の画像を示す。対照群、曝磁群ともK+濃度を高めると突起の成長が促進され、NGFの添加によっても同様の傾向がみられた。この突起の先端部から細胞膜の長さを測定し、細胞一個あたりの突起の長さの合計を分化の指標とした。

 

 細胞突起の長さを計測した結果を図6に示す。曝磁時間は24時間と48時間である。培養液中の高K+濃度下ではK+濃度が5mMの実験結果と比較すると、24時間、48時間後とも突起の成長を促進していることが分かる。またこの状態で曝磁すると、曝磁開始24時間後の結果においてはさらに突起の成長を促進していることが分かる。しかし、曝磁開始48時間後の結果をみると磁界の影響はみられない。一方NGFを添加した実験結果においては曝磁開始24、48時間後とも突起の成長を促進している傾向がみられた。




今回、ラット副腎髄質褐色細胞腫PC12細胞を用いてその分化に対する磁界の影響を調べたところ、NGFを添加した細胞においてはすべての計測時間において対照群に比べて曝磁群の方が突起の伸びが促進された。またNGFを添加しさらに培養液中を高K+濃度の状態において、磁界曝露は突起の成長をさらに促進した。PC12細胞が分化する要因として、

1. NGF/チロシンキナーゼの経路

2. 細胞膜の脱分極

3. 細胞内Ca2+濃度の変化

などが挙げられるが、磁界曝露がこれらの要因に影響を及ぼし、突起の成長を促進していると考えられる。


質疑応答

[0001] 奥野 攻 (東北大学大学院 歯学研究科 歯科生体材料学分野 )
Osamu Okuno okuno@mail.cc.tohoku.ac.jp 初歩的な質問お許し下さい。NGFを添加した細胞においてはすべての計測時間において対照群に比べて曝磁群の方が突起の伸びが促進され、またNGFを添加しさらに培養液中を高K+濃度の状態において、磁界曝露は突起の成長をさらに促進したとのことです。ELFがどのようなメカニズムでこのようなことを促進するのでしょうか。お考えがありましたら教えてください。 --- Tue Feb 5 20:38:30 2002

[0002] 村戸良平 (徳島大学 工学部 電気電子工学科 ) Ryohei Murato (Department of Electrical and Engineering,Faculty of Engineering,The university of Tokushima ) murato@ee.tokushima-u.ac.jp  我々の研究グループではFT-IR分光光度計により、生きた培養細胞にELF磁界を曝露し、細胞表面の蛋白質や脂質構造の変化を測定しております。この測定より、磁界曝露時にこれらの構造が可逆的に変化することを見い出しております。これらの変化がどのような生理的な機構と関連するのかは現在のところまだ分かっておりません。しかし、発生磁界によって誘導された誘導電流が細胞の膜構造に影響を与え、膜の電気的性質、膜電位や種々の受容体、例えばNGFレセプター/チロシンキナーゼ経路等に作用し、促進的な作用を引き起こすのではないかと考えております。また、 高K+濃度培養液によって上記促進作用が引き起こされ、さらに磁界曝露によりさらに促進することから、細胞膜の電気的性質、膜電位の変化も磁界により誘導される可能性を示唆しているのかも知れません。 --- Mon Feb 18 19:13:57 2002


村戸 良平
Ryohei, Murato

E-mail: (質疑応答の受付は終了いたしました。)
 



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