骨形成に及ぼすELF交流磁界の影響

Effects of ELF magnetic fields on physiological functions in osteogenesis

○中野芳子,細川敬子*,山口久雄*, 朴 基豪, 北村光夫*, 池原敏孝*,
木内陽介, 吉崎和男*, 宮本博司**

○Yoshiko Nakano, Keiko Hosokawa*,Hisao Yamaguchi*,Ki Ho Park,
Toshitaka Ikehara*, Mituo Kitamura*,Yohsuke Kinouchi, Kazuo Yoshizaki*,Hiroshi Miyamoto**

徳島大学工学部,*徳島大学医学部第一生理学教室,**徳島文理大学

Faculty of Engineering,The University of Tokushima.
School of medicine ,The University of Tokushima.
Tokushima Bunri University


I はじめに

 本研究では交流磁界が人体に及ぼす影響を調べ、そのメカニズムを解明していくことを目的としている。これまでに培養骨芽細胞(MC3T3-E1)の分化誘導に及ぼす影響についてELF(extremely low frequency)変動磁界の影響を調べ、磁界暴露により分化が促進されることが分かってきた。今回の実験では骨芽細胞の分化を促進することで知られているトリヨードチロニン(T3)を投与して、分化誘導に及ぼす薬剤効果と曝磁効果を比較した。

II 方  法

 本研究に使用した磁界発生装置をfig.1に示す。上下に二本のソレノイドコイルを配置することにより、60[Hz]、最大磁束密度3[mT]の正弦波を得られた。また絶えず温水を循環させ37±0.2℃に温度を保っている。fig.2は磁束密度の実測値を示している。実験ではT3を細胞に投与したものを対照群と曝磁群にわけたものとT3を投与していない対照群と曝磁群の4グループにつて調べた。
[fig.1 実験装置 ]
fig.1 実験装置
[fig.2 磁束密度実測値 ]
fig.2 磁束密度実測値

III 結  果

 fig.3では増殖期に促進するプロテインキナーゼC(PKC)活性を測定した。実験では骨芽細胞の細胞質(Cytosol)と細胞膜成分(Particulate)について別々に測定し、細胞全体のPKC活性を確認するとともに増殖機能状態の異なる増殖期と分化期における曝磁の影響を調べた。この結果よりPKC活性は曝磁により抑制されるがT3投与では抑制されないことが示唆された。
[fig.3 PKC活性測定結果]
fig.3  PKC活性測定結果
 fig.4では骨形成の分化の指標とされているオステオカルシンを抗体染色し、測定した。T3を投与して曝磁したものが最もオステオカルシンの発現がみられた。
[fig.4 オステオカルシン免疫染色]
fig.4  オステオカルシン免疫染色
 また薬剤に対しての曝磁の効果を調べるためにfig.5、fig.6の実験を行なった。fig.5は増殖期の細胞に増殖を促進する薬剤PMA(phorbol myristate acetate)を投与し、fig.6は分化期の細胞に分化を促進するc−AMPを投与してそれぞれ分化の指標であるALP活性を測定した。fig.6において、有意な差は出なかったが、薬剤を投与して曝磁を行なうと影響が現れる傾向にあることが示唆された。
[fig.5 ALP活性測定結果(PMA)]
fig.5  ALP活性測定結果(PMA)
[fig.6 ALP活性測定結果(c-AMP)]
fig.6  ALP活性測定結果(c-AMP)

IV 考  察

 fig.3・4の結果から曝磁とT3による分化誘導機構は異なっていることが分かった。T3は細胞の核に直接的に影響していることが知られていることから、曝磁は核には直接的には影響せず、PKC活性を抑制して分化を誘導していることが示唆されるが、今後詳しく調べる必要がある。またfig.5・6の結果からELF磁界は骨芽細胞の分化を誘導する薬剤効果を促進する傾向がある。

V 結  論

 ELF磁界は分化を誘導するがその機構はT3と異なり、直接細胞核には影響せず、PKC活性を抑制して分化を誘導していることが分かった。またT3を投与して曝磁を行なうと相加的な効果が得られた。またELF磁界は細胞の分化を促進する薬剤の効果を促進する傾向がある。今後はfig.7に示すようにオステオカルシンのmRNAを測定してより詳しく曝磁の影響を調べていきたい。
[fig.7 オステオカルシンのmRNAの測定
]
fig.7  オステオカルシンのmRNAの測定

文  献

1) F.Varga,M.Rumpler,E.Luegmayr,Fratzl-Zelman, H.Glanschning,K.klaushofer:Triioothyronine,a Regulator of Osteoblastic Differentiation:Depression of Histone H4,Attenuation of c-fos/c-jun,and Inducation of Osteocalin Expression,Cslcif.Tissue Int(1997)61:404-411,1997 2)Kashimoto H.,Ikehara T.,Park,K.H.,Kinouchi,Y., Hosokawa K.,Yamaguchi H.,Yoshizaki K.,Miyamoto H.:Effects of switched strong magnetic field on Ca2+release from intracellular vesicles of cultured chromaffin cells,BEMS abstract book June 20-24,1999

連絡先



中野 芳子
Yoshiko Nakano
E-mail :(質疑応答の受付は終了いたしました。)
質疑応答

[0001] 新谷洋人 (徳島大学工学部 )
HirohitoShintani (Faculty of Eng., Tokushima Univ. ) 骨形成に及ぼすELF交流磁界の影響大変興味深く読ませて頂きました。 初歩的な質問で申し訳ないのですが、近年、強磁界の影響で白血病や癌になる可能性があるという研究がなされている一方で、骨折治療のために磁界を照射するといったことが行われていますが、両者の磁界の強度にはどの程度の差があるものなのでしょうか、また骨折治療のための磁界照射には危険はないのでしょうか、お教えください。 --- Thu Feb 14 20:33:03 2002

[0002] 中野芳子 (徳島大学工学部 ) Yoshiko Nakano (Faculty of Eng., Tokushima Univ. ) yoppan48@ee.tokushima-u.ac.jp ご質問ありがとうございます。 白血病や癌などの疫学調査はアメリカやスウェーデンで、主に送電線の下で行ったものがあります。そういった疫学調査では0.2μTくらいの磁界の強さを対象にしているのに対して、今回私どもが行った実験では3mTという強い磁束密度を骨の細胞にあてて影響を調べております。磁界曝露による骨折治癒のメカニズムは未だ解明されておりませんが、私どもとしては、今回の実験でも骨の細胞の分化を誘導しているのではないかと考えてはおります。今後さらに骨芽細胞に対するELF磁界の影響を調べ、追求していくつもりです。 --- Thu Feb 21 16:04:53 2002


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