緒言,磁性アタッチメントの装着   アレルギー症状と経過  
磁性アタッチメントによるアレルギーが疑われた一例

考 察

 

 今回の症例では,磁性アタッチメント製作に使用された金属の成分分析は行っていないが,金銀パラジウム合金はメーカーに問い合わせたところ,金,銀,パラジウム以外に銅と亜鉛が含まれていた.一方,白金加金はメーカー等不明であったが,一般的には,金,銀,白金,パラジウム,銅に加えて,脱酸剤として亜鉛またはスズ,あるいはインジウムが含有されていると思われる.すでに口腔内にあった白金加金にはパッチテストで陽性を示したパラジウム,金,白金が含まれていることから,これらによる金属アレルギーは考えにくいものと思われる.アレルゲンの可能性のある鉄は白金加金および金銀パラジウム合金に含まれていないことから,金銀パラジウム合金に含まれる亜鉛か磁石構造体に含まれる鉄による金属アレルギーの可能性が考えられる.しかし,支台築造には金銀パラジウム合金と思われる合金が使われており,患者の年齢を考慮すると,過去にクラウンなどで金銀パラジウム合金が使われていた可能性がある.また,白金加金には亜鉛またはスズが含まれている可能性がある.これらを考え合わせると,磁石構造体に含有される鉄による金属アレルギーの可能性が考えられるが,パッチテストの結果からも全くの推察に過ぎない.

 

 まとめ

 

 これまで歯科用金属によるアレルギーの報告は多数あるが,磁性アタッチメントによるものは笠原らの報告があるのみである.笠原らの報告では磁石構造体を削合したために,鉄以外の構成元素が溶出し,症状を引き起こした可能性を示唆している.今回の症例では,磁石構造体の削合を行っておらず,また,パッチテストでも1種の磁石構造体のみ陽性であり,原因を特定できるまでには至らなかった.しかし,使用金属などから磁性アタッチメントに含まれる鉄による金属アレルギーの可能性が推察された.


演者への連絡先 : 山内六男 Mutsuo Yamauchi
: 質疑応答の受付は終了しました


質疑応答

[0001]
坂東 永一 (徳島大学歯学部歯科補綴学第二講座 )
Eiichi Bando (Dept. Fixed Prosthodontics, School of Dentistry, The University of Tokushima )

患者さんの希望があって,キーパーと磁石構造体を除去したら症状の改善が認められた.しかし,皮膚症状は若干残存しているとのことであるが,患者さんは現在どのようなことを希望しておられますか.
磁性アタッチメント以外の口腔内金属ついてさらに検討される可能性はありますか.

--- Tue Jan 30 18:19:16 2001

[0002]
山内六男 (朝日大学歯科臨床研究所 )
Mutsuo Yamuchi (Post-doctoral Institute of Clinical Dentistry,Asahi University )

ご質問有り難うございます。
現在も岐阜大学皮膚科にて検診を受けており、ステロイド系軟膏を処方され、かゆみがでた場合塗布しているようです。
何かわかりませんが、民間療法も行っているようです。
内冠や義歯については除去や再製は希望していません。
残存歯にはすべて白金加金の内冠が装着されており、患者も除去を希望していないことから、分析を行う予定はありません。また、微少削粉による組成分析の方法も本学では確立されていません。
以上お答え致します。

--- Wed Jan 31 19:11:09 2001

[0003]
笠原 紳 (東北大学大学院歯学研究科咬合機能再建学分野 )
Shin Kasahara (Tohoku Univ. Graduate School of Dentistry, Div. Fixed Prosthodontics )

貴重なご報告,ありがとうございます.
約2年前,当学会で報告した患者さん(「日本歯科評論」2000年3月号 No.689掲載)は,現在も通院されております.
磁性関係の金属は全く使用せず,欠損部はオーリングアタッチメントを応用した義歯となっています.その後,症状は軽減し,現在はほとんど痒等は消退しております.
現在,振り返っても,不可解な部分があります.
今後,このような症例がありましたら,ぜひご報告くださるようお願いします.

--- Fri Feb 2 18:03:34 2001

[0004]
奥野 攻 (東北大学大学院歯学研究科 歯科生体材料学分野 奥野 攻  )
Osamu Okuno (Div. Dental Biomaterials, Graduate School of Dentistry, Tohoku Univ. )

磁性アタッチメントにはカタログによれば非磁性のステンレス鋼SUS316あるいは316Lが使用されています。マグフィットではSUS316が外表面の約1/3に帯状に、ハイコレックスではSUS316Lが吸着面に微細なリング状であるようです。これらSUS316あるいはSUS316Lは耐食性に優れておりますがNiを12-15%含んでおり、ごく僅かと思いますがNiイオンが溶出する可能性も残されています。この患者さんはNiのアレルギーは無かったのでしょうか。

--- Fri Feb 16 12:56:59 2001

[0005]
山内六男 (朝日大学歯科臨床研究所附属歯科診療所 )
Mutsuo Yamauchi (Post-doctoral Institute of Clinical Dentistry,Asahi University )

ニッケルに対するアレルギー反応はありませんでした。

--- Tue Feb 20 10:34:16 2001 


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